スペシャルインタビュー
インタビュー 第2回 コウケンテツさん Vol.1
Date:2012.08.21
スペシャルインタビュー第2回は、人気料理家であり、2歳の男の子のパパでもあるコウケンテツさん。料理家として多忙な日々を過ごすなかで、どのように育児を行っているのでしょうか。パパの顔に迫ります。
コウケンテツさんは、料理家として「コウケンテツのキムチ料理」「子どものまんぷくごはん」など、多くの著書を出版。そして、テレビCMやイベント出演など、幅広いジャンルで活躍されています。さらに、料理のみならず育児関連の仕事も積極的に行っている印象があります。
「男の料理家なので、よく" カンタンにできる手抜きレシピ"だとか、" 冷凍食品を使ったアレンジレシピ"を紹介してって言われるんです。ですが、そういうメニューは、今まで自分が食べてきた料理ではありませんし、子どもにも食べさせたくないという思いがあります。特に自分の子どもが誕生してからは、子どもに食べさせたいって思うものじゃないとやらないようになりましたね。やはり僕自身が母の手料理を食べて育ちましたので、自分が食べてきた食文化が大きく反映されています。子どもが生まれことで、提案するレシピも子どもとの食事を想定した内容になっていましたね。子どもを中心に考えたものになっていると思います。
独立したての頃は、求められているものに答えようっていう気持ちが大きかったんですが、少しずつキャリアを積んできて、そして、自分の子どもが生まれたことで、自分のルーツをもっと仕事に表現したいという思いが出てきました。
もともと韓国がルーツですが、国に関係なく、イタリアンも中華も幅広い料理が求められていましたが、子どもの頃母が作ってくれたメニューだったり、韓国料理をアレンジしたような、自分のルーツにどんどん立ち返っていくようなレシピが多くなりましたね。
もちろん、流行の食材などを使ったレシピ提案を求められることもあります。でもそれは、僕がやらなくてもいいのではないかと。そういう思いが出てきたというのもあり、今まで自分がなにを食べてきたのかを考えはじめました。
やっぱり食にはルーツが出てくると思うので、自然と意識するようになりましたね」
そう考えるようになったのも、コウケンテツさん自身が子どもの頃、病弱だったことにも関係しているそうです。
「はい。喘息やアレルギー、アトピーもありました。風邪ひいたら悪化して肺炎になったり......。だから母は、なにを食べさせたら元気になるのかということをすごく考えてくれていて。旬の食材を使ったメニューや昔ながらの伝統食などをよく作ってくれました。でも、子どもの頃はなんでこんなんばっかり食べないといけないのかと思っていたんです。CMで流れているミートボールやインスタントラーメンが食べたいって思うこともよくありました(笑)。
でも、母の作るご飯が僕をちゃんと守ってくれたと思うんです。おかげで喘息も治りましたし、アトピーもすごく軽減しました。母の食事で、体が改善したんですよね。
生活の源は、母の手料理だったので、自分の子どもにも同じことをしてあげたいです。料理家としても、自分がやるべきことはそこにあると強く思っています」
では、実際はどのように子どもの食事を工夫しているのでしょうか!?
「声を大にしては言えないことなのですが......息子は僕の料理を食べないんですよ。それは営業妨害だって言っているんですけど(笑)。
といっても、食べない時期っていうのは誰でもあると思うんです。1歳の頃は、大人用の茶碗2杯分ぐらい食べていたので、逆に食べすぎで大丈夫なのかなと思ったこともありました。でも2歳半ぐらいになってまったく食べなくなったんです。ちょうどイヤイヤ期にも突入したっていうのもあるんですけど、今は辛抱する時期なのかなと思っています」
そのように思えるのも、以前仕事で対談をした大学の教授から聞いた話が役立っているそうです。
「そうなんです。今の若いパパやママは、結果をすぐに求めるというお話を伺いました。例えば、料理の世界には下積み何年、自分の店を持つまでに何年というふうに言われていたりしますが、今はそれらの過程をすべてすっとばして自分の店をオープンさせるという......すぐに結果を求める傾向にあるそうです。
でも、食べ物は一生の付き合いです。今、ピーマンやニンジンが食べられなくても、これからの長い人生で考えればどうってことないといいますか、少しおおらかな気持ちで見守るほうがいいと思っています。僕自身も好き嫌いがなくなったのは中学生ぐらいなので。それまではほんと韓国料理が嫌。キムチは嫌いって言っていました(笑)。
食べる意味や親がご飯を作ってくれるありがたみって、年齢を重ねるごとに分かってくるものだと思うんです。だから、自分自身が大きくなってから気がついたように、自分の子どもに対しても、もう少し大きくなってから気づいてくれるといいなぐらいの気持ちでいるのがいいのかなと思っています。
自分の生き方なら、目標設定してそこに向かっていくというのはあるんですけど、子育てはこんなに思い通りにならないことがあるのかって思うんですよ。本当に思い通りにならないので、こういうふうにしたいって理想を決めてしまうと、親が追い込まれるだけのように感じています。
食べないなら食べないで、いつか食べてくれるだろうと。気持ちの持ち方ひとつで、子育ては変わってくると思います」
そのような考えにいたるまでには、さまざまな工夫をしたそうです。
「息子はニンジンを食べなかったんです。焼いてみたり、茹でてみたり、刻んでみたり......料理法や切り方をいろいろ試してみました。そうしたら、細切りにしてゴマ油でゆっくりゆっくり炒めて甘みを出して、塩だけで味付けしたときに食べたんです。そうゆう発見があったときはやった~と嬉しくなります!
作ったものを食べないのは、誰でも腹立つと思います。せっかく作ったのに、ぽいっとされたりとか......でも、食べないものは食べないんですよ。食べなくても、また作る。それは親子関係だからこそできることですよね。そういうやりとりも、一種のコミュニケーション。
どうにかして食べさせようと親は努力する。子どもを喜ばせながら食べさせたり、こういう積み重ねが親子の絆を深めていくのかなと」
さまざまな工夫をしながら、子育てに取り組んでいる姿がとても印象的なコウケンテツさん。 Vol.2では、さらにその姿に迫ります。
Profile
コウケンテツ
料理家。韓国料理を中心に、素材の味を生かしたヘルシーなメニューに定評がある。現在は雑誌や本、テレビ、ネットコンテンツ、イベントなど多方面で活躍中。「とうがらし」「コウケンテツのキムチ料理」など著書多数。
http://www.kohkentetsu.com/